君が思い出になる前に…
この世界にきて、三回目の登校である。素直に学校に来るおれって、いったいなんなんだろう…。

隣りの席には、昨日家にきてくれた加賀紀子が座っている。「おはよう~」
「おはよう…」
「どうしたの?元気ないんじゃない?」と、おれの顔を見て紀子が言った。
紀子はいつもと変わりない。
平気なの?
さすが先客。
「パラレルワールドだよ…。もっと凄い」
小声で言った。
「なにか変わってたの?」
おれは、うなずいた。
「なになに?」
身を乗り出してきた。
「おれの家族…」
そこまで言ったけど、言葉に詰まった。
昨日の事は、果たして現実なのか夢なのか、今更ながら判断がつかない自分がいたからだ。
「家族?…増えたとか?」
さすがに紀子。一年前からきてるだけあって、驚く様子はあまりない。
目の前にいるのは、ショートカットの似合う中学三年生の加賀紀子。
でも実は30歳のOL。このギャップは大きい。
かく言う自分も、本当はスーパーのバイヤー。
今の時間は入荷してくる野菜の鮮度チェックと値段の確認をしている頃だ。
北高を卒業してまだバスケットがやりたかったから、三部リーグ所属のクラブがある大手スーパー『サンシン』に入社した。
26歳で膝を故障して、引退。
その後、地元の店舗に転勤して四年。
それが今は…。
『きり~つ!』
坊主頭の栗山の声。なぜか中学生…。

「あとで話すよ」
と、小声で紀子に言った。うなずく紀子。
授業が始まった。

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