君が思い出になる前に…
「なんの話しだった?」
教室に戻ると紀子が聞いてきた。
「あ~テストの事だよ。英語の答案に名前書かなかったらしい…」
姉さんの作ってくれた弁当を出し、スラッと言ってやった。
「え~!うそ!」
真理絵が驚いている。
そんなに驚くなよ…。
でも、こんなに冷静な自分が不思議でならない…。

「元宮く~ん」
廊下から声がした。杉下絵美だ。
「入ってくれば?」真理絵が手招きしながらそう言った。
それに吊られて中に入ってきた絵美。
「お邪魔します」
笑顔いっぱいに紀子と真理絵に言った。
「ここ、座っていいよ」
と、紀子が席を立った。
「ありがとう」
ペコリと頭をさげて、すかさず絵美は座った。
それから紀子と真理絵はおれを振り返り見ながら、ふたりして教室から出ていった。
「わぁ~、恭子さんのお弁当かっわいい~」
おっと、見られた。少し顔が熱い。恥ずかしい…。
「あっ、そうだ、これ」
そう言ってノートを差し出す絵美。
例の交換日記だよ…。
「あ、うん…」
なんかため息が出そう。これ、意外と苦痛かも…。
15歳の自分なら喜んでこういう事したんだろうけど、今のおれには、気が進まない。
面倒くさいなんて言ったら、泣いちゃうのかな?
殴られたりして…。まさか…。
そんな子じゃないよねぇ。
絵美が嫌いな訳じゃない。
間違いなく15年前は彼女の事が大好きだったし、彼女と交換日記をしてたのも事実だ。それはちゃんと記憶にある。
でも30歳のおれには、子供っぽくて少々きつい。
「どうしたの?元気ないんじゃない?」絵美が心配している。
「あ、別になんでもないよ…」
姉さんの弁当はおいしかったけど、絵美の笑顔も可愛かったけど、なんか明るく振る舞えない。
< 53 / 200 >

この作品をシェア

pagetop