君が思い出になる前に…
これからどう変化していくのか判らず、不安の方が大きかったから。
「本当に大丈夫?」少し悲しげな顔をしている。
「あ、大丈夫、大丈夫…」
そう言ってニコッと笑ってあげた。当然作り笑顔だけど。
「本当に?」
「うん…」
笑顔を振りまくおれ。意外とけなげかも。

「あ、そうだ、中間テストの結果、張り出されるわよ、見にいこう」
「う、うん」
張り出されるのか…。そうだった。
姉さんの愛情たっぷり弁当を食べ終えると、絵美とふたりで職員室の前に行った。
もうすでに人だかりができていた。
「早く早く」
そう言っておれの手を引っ張る絵美。

三百人中150番まで張り出される。毎回の恒例だった。
15年前には、後ろから数番目にあった。ときには無かったりもしてた。
でもこの世界は、違ってる。
普通でない事を知っているのは、紀子だけ。

ほかの全員は、秀才のおれしか知らないらしい。
いつも上位にいるのは、おれじゃない誰か…。
たとえばクラス委員の栗山とか…。
この絵美も上位に名前を連ねるひとりだった。
「あっ、あった」
と、絵美。
見ると420点。15番杉下絵美。
素晴らしい。
おれは…、400点。それはわかっていた。
「あ、ほらほら、あれ」
そう言って絵美はおれの名前を見つけた。21番か…。
ため息が出る。
15年前には、絶対に有り得ない順位なのに…。
飛び上がって喜んでいるはずなのに…。「どうしたの?うれしくないの?」
絵美がおれの顔を覗き込んで言った。
「あ、そんな事ない。うれしい…、うれしいよ」
顔が引きつっているのがわかった。
現実の世界なのか、夢の中なのかわからない、不思議な世界に紛れ込んでしまった自分が不安でならない。

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