君が思い出になる前に…
「じゃあ、ここで…」絵美の家の前に着いた。
「うん」
「なんか暗い…よ。どうかした?」
「そ、そんな事ないよ…」
「でも…」
不安な顔をしている。
「ほんと、なんでもない。ちょっと考え事してたから…。ごめんね」
「それってあたしのせい?」
「違う、違う!きょ、今日の英語の答案の事だよ!」
思い浮かんだ言い訳を口にしていた。
「あ、そうか!でも先生ひどいよねぇ、元宮君の解答だってわかってるのにね…」
「い、いや、おれが悪いんだから、しょうがないよ…」
なんとかごまかせたみたい。
「あんまり気落ちしないでね」
「大丈夫、平気平気」
そう言って笑ってみせた。
「じゃあ、また明日ね、バイバ~イ」
絵美は笑顔で送ってくれた。
「うん、バイバイ」
それに答えて手を振った。
また15歳の少年になってる。

考え事…。
そう、パラレルワールドの事。
少しずつ様子の違う世界が無数に存在する。
そう仮定すると、その無数の存在だけ同じ人間も存在する事になる。
なら、ここにいた『元宮祐作』は、どこに行った?
おれがこの世界に来たと同時にどこか違う世界に飛ばされたんだろうか?
この世界に『元宮祐作』は、おれひとり。同時に存在はしていない。
鳴醒を目指していた秀才の『元宮祐作』は、確かにこの世界に存在していたんだ。
おれが15年前からタイムスリップしてきた瞬間に、この世界の彼はどこかに飛んで行ってしまったんだ…。
飛ばされた先の彼もまた違う世界に飛ばされたのだろうか…。
それは、すべての『元宮祐作』に言える事だってか?…。

それを元に戻す、なんて事は不可能なんじゃないか?…。
当然ながら、人間の成せる技ではない。将来どんなに科学が進歩してもそれは不可能だと思う。
時間と空間の歪みに飲み込まれてしまったんだ。おれも紀子も…。
< 57 / 200 >

この作品をシェア

pagetop