君が思い出になる前に…
「本当に?」
紀子が嬉しそうに言った。
「さっき帰り道で、少し考えたんだ…」
「なにを?」
海の光を受けて、眩しそうに紀子が聞いた。
「パラレルワールドって少しずつズレた世界が無数に存在するって昨日話したよね」
「うん」
「おれたちがこの世界にくる前に間違いなくもうひとりのおれたちが、この世界に存在していた事は事実なんだよね。誰も今のこの存在を疑わない。多少話しが合わなかったり、とぼけているのかとか思われたりするけどね…。素直に受け入れられてる…。だったら、この世界にいたおれたちはどこに行ったの?」
「さぁ~?」
首をかしげる紀子。「おれが思うにきっと、おれがここに来た瞬間、どっか違う世界に飛ばされたんだと思う…。その飛ばされた先のおれも、またどこかに飛ばされたんじゃないだろうか…って」
「確かにそうだよね…」
「同時に同じ世界にふたりは存在できないんだ。有り得ない…」
「なんで?」
またおれを見つめる紀子。
「それはわからない…。もちろん、この話しも全部おれの想像なんだから。でもそんな風に考えるのが自然かなぁって思うんだけど…」
「自然じゃないけど…、なんとなくわかる気がする…」
と紀子。
「おれがなにを努力すれば、もとの世界に戻れるか、なんて考える事自体ばかげてることなのかも知れないね…。だから、加賀の考えは間違いじゃないんだよ」
「そぉ?」
「うん、多分ね…」
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