君が思い出になる前に…
すべて仮定なんだから、断言なんてできないよ。
「だから…、前の世界の事は忘れてもいいんじゃないかなぁ…」
「そうよね…」
「また違う世界に飛ばされたら、その時はその時。悩んでも仕方のない事なんだよね。おれたちが、存在してるって事は事実なんだからさ…」
「そうだよね…なんか元宮君の話し聞いて安心した…。ありがとう」
膝を抱えたまま、頭をちょこんと下げた。
「でも、もしかしたら、またタイムスリップする可能性もあるんだよなぁ…」
「…そうなったら悲しいかも…」
不安にさせるような事を言ってしまったかな…。
「ごめん…、そんな事、気にしても始まらないよね」
本当は、紀子も覚悟してるんだと思う。ただ口に出すのが怖いだけなんだと…。

もう夕日は半分位、海に沈んだ。キラキラとさらに輝いている。
「そろそろ帰ろうか…」
おれは紀子の顔を見た。すると紀子が泣いている。
「どうしたの?」
紀子にそっと尋ねてみた。
「ん~ん、なんでもない…なんかね、30歳の自分に『さよなら』って言ってみたら、なんか涙が出てきちゃった」
涙を拭きながら、笑ってみせている。
「さよなら…か。だよね、確かに。戻る事を諦めた時点で、元いた世界のすべてにさよならなんだよな…」
「うん…。あたしね、婚約者がいたの…。同じ会社の人なんだけど、ずっと何年も一緒にいたの。付き合ってた訳じゃないんだけど…。ずっと好きだった。あたしの一方的な想いだったんだけどね。でも、この世界にくる3ヶ月前に、突然彼にプロポーズされたの…。だけど、それもなくなっちゃった…」
それも涙の訳なんだろうな…。
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