君が思い出になる前に…
「そうなんだ…。どんな人?婚約者って」
「内緒…」
いたずらっぽく笑ってみせた紀子。
「でもいいの、若さも時間も取り戻せたんだから」
紀子が明るく笑ってみせた。
「確かに…」
その笑顔を見ておれも安心した。
「あ~!なんだぁ?もしかして、おばさんが若返ったって言いたいんじゃないのぉ?もう!」
ほっぺたを少しふくらませて言った。
「そんなことない!そんなことないよ!」
慌てて弁解してしまった。でも少しは、そう思ったかも…ごめんね…。
無邪気に笑う紀子。
でも内心は、この場所みたいに心に堤防を作ってしまったんじゃないかな。
元の世界を断ち切る為に…。
それは相当な決心が必要だったと思う。これから先の15年を完全に『無』にするんだから。


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