君が思い出になる前に…
不要な記憶
 海辺の街は、もうすっかり薄暗くなっていた。
「今日も遅くなっちゃったね、大丈夫?叱られない?」
自転車を押しながら、少し後ろを歩く紀子に振り向いて言った。
「大丈夫よ、全然平気。これでも信用されてるんだから」
クスっと、笑ってみせた。
穏やかな表情…。
なんかホッとするんだよなぁ、彼女を見ていると…。
なんでだろう?
15年前には、なかった感情だ。
確かに隣りの席に座っていた頭のいい女の子って記憶はある。
休み時間に勉強を教えてもらった事も覚えている。
全然ウザがらず、教えてくれた優しい子って位で、それ以上の感情はまったくなかったように思う。こうして、ふたりだけで話しをする、なんて事も当然なかった。
これも過去の記憶のズレなんだろうか?おれにも紀子にもなかった記憶って事かな?


紀子を家に送り届けた後、ゆっくりと自転車を走らせた。
混乱してる頭の中を整理する為に…。
少しひんやりとする潮風が、顔に当たってなんとも心地良かった。

このアーケード街は、昔よく学校帰りに歩いたものだ。
パン屋さんでよく立ち食いしたなぁ。
そうそう、肉屋さんの揚げたてコロッケも最高だった。
いずれこの商店街の半分位の店は無くなってしまう。
いわゆるドーナツ化現象だ。
今から六年後に、おれの勤めていたスーパー『サンシン』がこの街に進出してくる。
それをきっかけに、大型店舗が郊外にどんどん建ち始める。そのあおりをモロに受けてしまう事になるんだ…。
悲しいけど、時代の流れなんだよな…。この懐かしく愛おしいアーケードは、いつまでも残してほしいなぁ…。
あそこのレコード屋にも、よく入り浸っていたっけ。
今度行ってみようか…。

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