君が思い出になる前に…
家に着くと、もう真っ暗になっていた。「ただいま~」
今日二回目のただいま。
「おかえり~」
姉さんのそれも二回目。
「遅いぞぉ!」
って、付け足された。なんて答えようか?
『うるせえなぁ』なんて言えません、決して。
ここはいい子で通しましょう。
「ごめん…なさい」これでいいかな?
「あんたさぁ、受験生なんだから、もう少し自覚持ちなさいよ」
本当ならこの年頃の少年は、口ごたえするんだろうけど、おれは中身は大人ですから、ちゃんとわきまえています。
「はい…」
うん、実にいい返事。綺麗な姉さんには特に従順です。

「ただいま~」
母さんが帰ってきた。
「おかえり~」
おれの時と若干声のトーンが違うんじゃない?
気のせいか?
「祐作、帰ってきてたか」
おれを見て母さんが言った。
「おかえり」
小さくそう言って、母さんの顔も見ず部屋に入った。
毎日気持ちの整理をするだけで忙しい。
そうだ、ポスター剥がさなきゃ…。
明日は絵美が遊びにくるし。これじゃ恥ずかしいよな。

「祐~、ごはんだよ~」
姉さんが呼んでいる。
「は~い」
また今日もおれの事、食卓のおかずにするんだろうな…。
居間に行くと、いつものように母さんと姉さんが並んで座っている。
その反対側がおれの席、…らしい。
「いただきます」
手を合わせ箸を持った。
「祐ね、今日彼女に電話で呼び出されて、さっき帰ってきたんだよ」
さっそくきた!
「だからぁ、彼女じゃないってぇ~」
って、言っても通じないか。
「うそ!誰?誰?」身を乗り出す母。
「昨日きた子。えっと、加賀さん」
「あらら、いいわねぇ~」
母さんまで冷やかすなよ…。
弁解するのも飽きた。黙ってよぉ。
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