君が思い出になる前に…
「…」
と母さん。
「…」
姉さんも無言。
ふたりは顔を見合わせた。
次の瞬間、声を揃えて、
「ドジだねぇ~」
返す言葉はありません…。
「と、言う事は満点だったって事?もったいない…」
そう言って姉さんがため息をついた。
母さんは、なぜか笑っている。
おかしくって笑ったんじゃない。きっと情けなくって笑ったんだろう。

夕飯を食べ終えると、また部屋に引きこもった。
15年前も今頃の時期はそうだった。
勉強するでも無し。ラジオかCDを聴いて過ごすのが好きだった…。
なんかこの世界に馴染んできたなぁ…。すっかり15歳気分になっている。
ん?なんでだ?
自分は30歳なんだって自覚が薄れてきるみたいな気がする…。
姉さんの前でも、学校でも、絵美の前でも15歳してるし。
心まで15歳になってしまうような感じがする。
もしかしたら、30歳の記憶は消えてしまうんじゃないだろうか…。
紀子は戻りたくないって言ってたけど、おれはどうなんだろう…。
15年前の自分とは、まるで違う世界。それが少しずつ、馴染んできている。
こっちにきて、たった三日しか経ってないのに…。
違う未来が存在してる。
おれと紀子の記憶は違う。
おれが生きてきた30年間の記憶は、意味がないって事なのか?
違う世界では何の役にも立たないって事なのか?
そう考えると、確かに不要な記憶になってしまう。
これから先、15年後の未来までの記憶は、忘れてしまうんじゃなくて、不要になってしまうんだ。
それじゃ、おれの生きてきた30年の意味ってなんなんだろう?
間違った生き方をしてたから、やり直せって事か?
そんな訳ないよな…。
誰の仕業なのよ?
神様?
時間?
それとも『運命』…とか?

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