君が思い出になる前に…
9時20分…開店前のミーティングをやってる時間だ。今日の仕入れは上手くできたんだろうか…。そんな心配、今したってなんの意味も無いか…。
「元宮~、誰か外にかわいい子でもいるのかぁ~」
婆さん、おれの事なんかほっといてくれよ。
「前に出て、これやりなさい」
な、なに?15年前と同じタイミングじゃないかよ。
しょうがねぇなぁ…あの時は全然わからなくって、ただおどおどしながら、婆さんが席に戻れというまでなにも書けなかった。
席を立ち、黒板に向かった。
スラスラと答えが出てくる。うん、完璧。って、何やってんだ?おれ…。
チョークを置き振り向くと教室全体でおれを見ている。何?どうした?
「ん、よくできました」
婆さんが感心している。感心されてもなぁ…。困るよ。一回やってるんだから。でもよく覚えてたなぁ…。
席に戻ったら、となりの子が肘を突っついてきた。
「すごいじゃん」
加賀紀子だ!気づかなかった。外ばかり見ていて隣りなんてまったく気にしてなかった。
昔のまんま、ショートカットの髪が印象的だった。
彼女は東京の私立大学に行って、そのあと大手商社『丸カツ』に入社したんだ。そこまでは知ってる。でも30歳の彼女の事までは知らない。
「どうしたの?あたしの顔になにかついてる?」
おっといけない。見入ってしまった。
「あ、いや、別になんでもない…」
「ほんと凄いね、ちゃんと予習してるんだもの、さすがって感じ」
って紀子。
「なにを?予習?」まだ、習ってなかったのか?
「数学なんか意味ねぇとか言ってたじゃん」
言ったかぁ?そんな事…。そう言いたかったがやめた。
「お前、意外とかわいいんだなぁ…」
まじまじと顔を見てたら、思わず口が滑った。
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