君が思い出になる前に…
成績は抜群に良かったけど、バスケットに関しては、おれの15年前と変わりないと言う訳か。
成績優秀、スポーツ万能、なんて奴はそうそういないってね…。
もっとも、おれとは違い、成績は優秀だったんだから、おれの完敗ですけど。

今日は午後から絵美が遊びに来る日…。帰り際、部室の前で絵美に会った。
「先に帰ってて、あたし家に寄って行くから」
みんなの手前、すれ違い様に小声で言った。
「うん、じゃ家で待ってる」
おれもつられて小声で言った。
何気ない会話なんだけど、15年前にこんな事、あったんだろうか…。
確かに遊園地に行く計画を立てて、その日雨が降ったから、映画に変更したのは覚えている。
その前の日に、家に遊びに来たんだっけ?
だいたいおれの家に絵美が遊びに来た事自体ないんじゃないかな…。
心の引き出しの隅っこを突っついてみても、そんな記憶は全くない。
やっぱりズレている世界。
おれの記憶は本当に不要になってしまうんだろうか…。

家に帰ると今日も姉さんが先に帰ってきていた。
「おかえり~」
ようやく馴染んできたけど、姉さんの存在ってイマイチ分からない。どう接していいのか…。
ひとりっ子だったから。
姉弟の関係ってどんなんだろう。
でもかなりユニークな姉さんである事は間違いない。
意外と楽しいし…。
「あれ?絵美ちゃんは?」
姉さん、ちゃんと覚えてた。
「家に帰ってからくるって」
なんでこんなに冷静なんだろう…。
ワクワクしてても良さそうなのに。
大人なんだからって言ってしまえば、それまでなんだが。
15年前には、女の子と上手く話す事すら出来なかった。
告白して、相手がその気になってくれても、顔をまともに見る事もできず、話したい事も話せず、あとが続かないってのが現実だった。

< 73 / 200 >

この作品をシェア

pagetop