君が思い出になる前に…
「え?」
どういう事?
「あたしね、昨日の夕方、偶然見ちゃったの…」
絵美が言った。
「え?何を?」
「加賀さんと海にいたでしょ?」
あちゃ!
見られたんだ!
何て言い訳したらいいんだろう。
「う、うん…」
言葉が見つからない。
「加賀さんと付き合ってたんだ…」
更に悲しげに言う。「ち、違う!違う!加賀が話しあるからって、行ったんだよ!」
慌てて弁解した。
「どんな話し?って本当は聞きたいけど、でも聞くのが怖い…」
上目使いにおれを見た。
「別にそんなんじゃないよ!」
特別な感情なんてないよって言うつもりだった。けど、その言葉は出なかった。
「加賀さん、成績もいいし、可愛いもんね…」
絵美が泣いているように見えた。
「本当に違うんだよ。付き合ってる訳じゃないよ。そういう話しじゃないんだってば」
語尾は細くなっていた。
「何でも話して欲しいなぁ…、できるなら…」
うつむいたまま絵美が言った。
話していいものなのだろうか。
昨日紀子と話した事。
本当の事を…。
信じてくれるんだろうか…。
黙ってしまった。
 紀子との事…。
はたして絵美に、理解してもらえるのだろうか…。
だけど、うそを並べるつもりもない。
上手いうそを見つけられるほど、今のおれは冷静ではない。うそを言ってバレたら、もっと誤解される。
今のおれ、さっきの歌の詞を思い出した。

世界中の悩みひとりで
背負ってたあの頃
おれの背中と話す君は
おれより辛かったのさ…。

世界中の悩みって程じゃないけど、話さなければ絵美が辛い思いをする。
話して理解してもらえなければ、もっと誤解されてしまうかもしれない。
この付き合いもこれで終わりになるのかも…。

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