君が思い出になる前に…
無言の時間が過ぎていった。

「おれ、絵美に会えて良かった…。こんなおれと付き合ってくれて、本当にうれしいよ…。その気持ちは変わらない」
固まっていた絵美が、不意に顔を起こした。
「え?付き合ってって言ったのは、あたしの方よ…」
と、驚く絵美。
「え?だっておれが手紙を渡して始まった交際だろ?」
「ん~ん、違うよ」「そんな…。おれが絵美に一目惚れして…」
そこまで言った時、「それもパラレルワールドなのね…。いくつものズレた世界が存在するって…」絵美が言った。
おれが説明するほどの事ではなかったようだ。
ちゃんと理解している絵美。
SF好きの絵美には、現実に起きている事の説明は、さほど必要ないみたいだ。
なんか少し、ホッとした気がする。
「いいの?」
おれは絵美に尋ねた。
「何が?」
涙を拭いながら絵美が言った。
机の上のティッシュを絵美に渡して、話しを続けた。
「5日前のおれじゃないんだよ…。それでもいいの?」
「うん。だってあたしにとって、祐ちゃんは祐ちゃんだもの」
ティッシュを小さく折りたたんで、涙を拭いた絵美。
「少し様子とか態度とかは、違うかもしれないけど、『元宮祐作』には違いないと思うよ…。15年前にもちゃんとおれは絵美と付き合ってた。それは間違いない事実だし」
「でしょ?」
絵美は意外と簡単に納得した。
けど、本当にいいんだろうか…。


「祐~!紅茶いれようか?」
部屋の外から、姉さんの声がした。
慌てて離れる絵美。そして更に丁寧に涙を拭き取った。
「あ、うん。お願い」
絵美の様子を見て答えた。
カップの中の紅茶は少ししか減ってなかった。
絵美とおれは顔を見合わせ、冷めてしまった紅茶を二人して一気に飲み干した。
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