君が思い出になる前に…
「お邪魔しま~す」姉さんが紅茶ポットを片手に部屋に入ってきた。
「あら?なんか静かね…。絵美ちゃん、もしかして泣いてた?」
さすがに鋭い姉さん。
「泣いてないですよ。今ね、歌聴いてて、感動しちゃったんです。少しだけウルウルしちゃいました…」
絵美がごまかした。「そぉ?本当に?ならいいけど…。祐が泣かせたんじゃないかと思ったわ」
と、おれを睨みつける姉さん…。
昨日の紀子との事があるからなぁ。
きっとおれの目は泳いでいたと思う。
「な、な、何?」
声が震えるおれ。
「絵美ちゃん泣かせたら、お姉ちゃんが許さないからね!」「な、泣かせてないよ…!」
慌てて言った。
「お姉さん、その時はよろしくお願いします」
と、笑顔で言った絵美。
「まかせてぇ!ぼっこぼこにしてあげるからね」
と、拳を握って姉さんが言った。
「勘弁してよぉ…」おれはそんな二人の会話を聞いてて、少し安心した。

部屋を後にした姉さん。
肩をガクッと落としてため息をついた。「ホント、いいお姉さんよね。この事は知らないの?」
「うん。話してもしょうがないし。それに本当は…、本当はって言うか、元の世界では、おれ実はひとりっ子だったんだ…」
「え?そうなの?それもパラレルワールド?」
「うん…。だから最初ビックリしたよ…。誰なんだろうって…。でも何日か経ったら、本当に姉さんの存在が身近になってきて。昔からずっと一緒にいるみたいに思えてきたんだ。不思議だよ…」
「でもあたしからすれば、ずっと前からあなたとお姉さんは仲良し姉弟だったわよ」
「そうかもね…、そうなんだろうね…きっと」
「うん。だから何も変わらないの…。5日前のあなたも、今のあなたも…」
「そう?そう言う事か。あ、ありがとう…」
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