君が思い出になる前に…
「うん。そうするよ。でも誤解しないで欲しい事があるんだけど…」
「何?」
「加賀の事…。加賀も今の状況を理解しきれてなくて、誰にも相談できないでいたんだ。同じ状況に立っているおれの存在を知って、喜んでる。だから、何かと相談受ける事があるかもしれない。そんな時はやっぱり、その、なんと言うか…」
言葉を選べない。
「うん、わかってる。やきもちなんてやかないよ…」
意外とさわやかに言ってのける絵美。
本当なら顔をひきつらせて言いそうなものなんだが…。
これって、紀子と話してても嫉妬するなよって言ってる事になるんじゃないか?嫌な奴だな…。おれって。
「ごめんね…」
絵美の顔を直視できない。
「なんで謝るの?謝らないでよ…」
「う、うん、ごめん…」
「あ、ほらまたぁ」絵美が笑った。
少しだけ穏やかな空気になってホッとした。

「明日楽しみだね」絵美が話題を変えた。
いつまでもこだわりたくないんだろうな。
おれの身に起きてる事より、加賀紀子の事…。
「うん、でも明日雨なんだよ…。だから予定変わって、映画観に行くんだよなぁ」
15年前のその日を思い出していた。
「え?天気予報みたの?」
「あ、いや知ってるから…」
「あ、そうか…。映画ねぇ。でも明日は晴れるって予報で言ってたよ」
絵美はおれの過去になるべく触れないようにしてるんだろうか…。深く追求してこない。
「え?そうなの?」天気予報では晴れか…。
これもパラレルワールドだから?
「明日は晴れ!あたし、晴れ女なんだから!」
けなげな絵美が微笑ましかった。


「あ、もうこんな時間…」
机の上の時計を見て絵美が言った。
時計は7時5分前を差していた。
「祐ちゃん、送ってくれる?」
「もちろん!」
すかさず答えた。

< 84 / 200 >

この作品をシェア

pagetop