君が思い出になる前に…
部屋を出ると居間には誰もいなかった。姉さんは?台所?
いい匂いがしてる。お料理中か…。
「お邪魔しました~!」
少し大きな声で絵美が台所の方に向かって言った。
すると、いつものTシャツに短パン姿の姉さんが台所から出てきた。
「絵美ちゃん、もう帰るの?夕飯食べてったら?」
フリフリの付いたエプロンで手を拭きながら姉さんが言った。
「家で用意してると思うので…。今度ごちそうになりにきますから」
と、笑顔で答える絵美。
「そぉ?じゃあ、今度ね」
姉さん、なんか残念そうな顔。特別な料理でも作ったんだろうか。
「お姉さんの作ってくれたシフォンケーキ、とっても美味しかったです。今度作り方教えてもらってもいいですか?」
乗せ上手な絵美。
「本当?嬉しい!いつでもどうぞ、教えてあげる」
今度は嬉しそうな顔をしてる姉さん。
なかなか忙しい表情の変化。
「祐、ちゃんと送ってくるのよ」
「う、うん。分かってます」
たじたじのおれ。
「じゃ、これで…。本当に今日はごちそう様でした」
そう言ってきっちりと頭を下げる絵美。「またいらっしゃいね。祐がいなくても遊びにおいでよ」
何言ってんだ?姉さん…。
「はい!そうします!」
嬉しそうに絵美まで…。


帰り道。並んで歩く二人。
どちらからともなく手を繋いだ。
15歳の少女と実は30歳のお兄さん?おじさん?
そんな感覚は全くなかった。
ここにいるのは、完全に15歳の祐作少年だ。
「今日はありがとう…」
ポツリと言う絵美。「なにが?」
「話してくれて…。本当の事」
「うん…」
涼しい風が吹いていた。

「ねぇ、2007年ってどんな世界?どんな風に変わってるの?」
絵美がおれの顔を覗き込むようにして、聞いてきた。
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