君が思い出になる前に…
「今は一部の大人の人しか持ってないでしょ?携帯って」
「うん、仕事バリバリやる人の必需品って感じよね?」
「それがね、15年後には小学生でも持ち歩いてるんだよ」
「うっそぉ~!凄いねぇ~」
驚くだろうな、普通…。
携帯電話の普及は凄まじいものがあるもんなぁ。

「あ、ほら月よ!見て!火星があんなに近くに」
空を見上げると薄暗くなった空に、少しだけ欠けた月が出ていた。
その近くにひときわ輝く星が見えた。
「あれって、火星なの?」
「そうよ」
「詳しいんだねぇ」感心するばかりのおれ。
本当に賢い子だ…。頭が下がります。
「まぁねぇ」
得意げな顔を見せてクスっと笑う絵美。

絵美の家に着いた。「ほんと今日はありがとうございました!」
勢いよくおれに頭を下げる絵美。
「とんでもございません!」
調子に乗っておれも深々と頭を下げた。「じゃ、明日。楽しみにしてる!きっと晴れるから、期待してて。それから未来の話し、また聞かせてね」
「うんいいよ、じゃぁね、バイバイ」
手を振って別れを告げた。
「バイバイ」
絵美も笑顔で手を振った。

『明日晴れるから期待してて』か…。
それがおれの記憶の否定になる事を、絵美は知ってるんだろうか…。
何気なく言った、軽い一言なんだろうな…。


「おかえり~」
母さんが帰ってきてた。
今日はグレーのスーツ姿。
前の世界の母さんはいつも自分で作ったワンピースを着ていた。
洋服屋の母と医者の母…。
外見は同じなんだけど。
それはおれも一緒。外見は同じだけど違うおれ…。
出来のいい祐作も出来のよくない祐作も、どっちもおれなのか。
未来は、わからないから未来って言うのか?
過去の記憶さえも曖昧なものになってきている…。
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