君が思い出になる前に…
「そっかぁ…。じゃあさ、映画も観に行こうよ!そうすれば昔と変わらないんじゃない?」
絵美が言った。
そういう問題ではないのだが…。
絵美の精一杯のフォローなんだと思った。
優しい子だ。かなり気を使ってくれてるのがわかる。
なのに、少しも盛り上がれないおれ。
何かがつかえているみたいな感じがする。なんだろう?
「なに観たの?15年前…」
意外にあっさり言う絵美。
「スタンドバイミーだよ」
「あ、先月公開になった映画ね、あたし観たかったの!観に行こうよ!」
元気に言ってるけど、おれもう何回も観てるんだよなぁ…。テレビでもビデオでも…。
けどそんな事、決して口が裂けても言えないし…。
「ほんとに?観たいの?」
おれの記憶に気遣う絵美がありがたかった。
紀子ならともかく、まったくこの不可思議な現象に関係のないこの子が、ここまで考えてくれてるなんて。
「遊園地は?もういいの?」
ここにきて、まだ二時間も経っていないのに。
「ほんとはね、こんなに日差しが強いとは思わなかったの。日焼け気になるし、映画の方が良かったかもって思ってたの」
日焼けが気になる…、か。
言い訳にしては上出来だ。こんなに気を使ってくれて…。
『ありがとう』
心の中でつぶやいた。

お昼を回った頃、おれと絵美は遊園地を出て、再び電車に乗った。
来た駅を二つ戻り、映画館のある街に降り立った。

映画館の中は意外と空いていた。
真ん中の通路を通り、前の方に並んで座った。
ちょうど切り替えの時間に入れた。
間もなくして館内が暗くなり、『スタンドバイミー』が始まった。
正直飽きるほど観た映画なんだが、絵美は当然初めて。
絵美の横顔でも見ていようかな…。
スクリーンの光りが絵美の顔を浮かび上がらせていた。
この健気な子になにをしてあげればいいのだろうか。
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