君が思い出になる前に…
でも…。でも…。
絵美が好きだ…。
年なんて関係ない。パラレルワールドなんてもう、どうでもいい。
生まれた世界と違ってても関係ない。
おれは今、ここで生きてるんだ。
ここで呼吸をしてるんだ。
その事実はどうしたって曲がらない。

絵美が好きだ!
好きなんだ!

決心がついた。
次の瞬間、家を飛び出していた。
玄関を出た途端、母さんが帰ってきた。「祐作?どこ行くの?」
「ちょっと出かけてくる!」
「どこ行くのよ~!」
母さんの声が小さくなっていく。
走った。
全力で走った。
込み上げてくる想いを抑えきれずに。
絵美の家に向かって…!


ピンポーン…。
絵美の家のチャイムを鳴らした。
インターホンから声がした。
「はい、どちら様ですか?」
少し冷たそうな声。お母さんだろうか。「えっと、あの…元宮です。す、すみません、絵美さんいらっしゃいますか?」「あ~、元宮さん?ちょっと待ってくださいね」
さっきよりかは、和らいだ声になった。少しだけホッとした。
絵美の家族にはまだ会った事がない。
しばらくして、ドアが開いた。
「いらっしゃい。絵美ね、今お風呂に入ってるの。中に入って待っててくださる?」
物腰の柔らかそうなお母さんだ。いかにも上品そう。
「あ、あの…、いいんですか?」
「どうぞ、お入りになって」
笑顔で招き入れてくれた。
中に入ると吹き抜けの天井から、長いシャンデリアがぶら下がっている。高窓にはステンドグラスが。
さすが、娘二人を同時に留学させられるだけあるなぁ。

「どうぞこちらへ」スリッパに履き替えて、連れてこられたのは、およそ30畳はありそうな居間に通された。
うちの居間が4個は入りそうなくらい広い。
ここにもシャンデリア。壁には間接照明と風景画が何点も飾られてある。それにピアノ…。
凄いや…。生活感がまるで違う。

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