君がいなくなって
「拓海がいれば、産んでも問題ないと思う」

賢司さんは私を真っすぐ見つめた。

「でも、いない」

ため息混じりに言葉を発して賢司さんは頭をかいた。

「…真由ちゃんのこれからの人生を考えると、酷だけど堕ろした方がいい気がする」

私は俯いた。

顔を上げられない。

拓海くんがいてくれたら。

こんな事にはならなかった。

でも、そういう事は『何を今更』だ。

「真由はどうしたいの?」

パパは私の顔を覗き込んだ。

目が合う。

「…産みたい」

ようやく搾り出した声は自分でも聞こえないほど、小さかった。

「産むだけじゃないよ。
その先の人生は大変な事になるんだよ。
シングルマザーと言えばかっこよく聞こえるかもしれないけど。
この子には最初からお父さんはいないんだ。
ハンディは大きいよ」

パパの言葉がグサリ、と突き刺さる。
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