君がいなくなって
「お父さんから聞いたよ」

賢司さんは俺の肩をポンッと叩いた。

「…そうですか」

その肩が小刻みに震えている。

「辞めるの?」

彩子さんは心配そうに覗き込む。

「…はい。辞めたくないけど、辞めるしかありません」

それを横で聞いていた隆道はショックを受けたのか、呆然としていた。

「じゃあ、うちに来ない?」

賢司さんの言葉に顔を上げた。

「今、若手のライダーを育てるプランがあってね。どうかな?」

彩子さんからは

「お父さんから色々聞いているわ。もし、君さえ良ければ、うちの家で下宿してもいいわよ」

但し。

子守つきだけど。



その年の春。

拓海が産まれたばかりで。

何かと大変だったみたいなのに。

俺を引き取ってくれた。



俺は、それから高校を卒業するまで、柏原家で居候する事になる。
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