こじらせカップルに愛の手を

そして、月曜日。
何とか体調も回復し、私は会社へと出勤した。

いつもは最寄りの駅から大野くんと一緒に通勤している一華も、今朝は私に付き添ってくれた。

「それじゃ…。無理しないようにね」

オフィスのエレベーターを降りたところで総務部の一華と分かれ、廊下を歩き出すと、山下くんが営業部のドアからひょこっと顔を出した。

「あ、おはようございます! 加藤さん、朗報です!」

私に気づいた山下くんが、嬉しそうに駆け寄って来た。

「おはよう。どうかしたの?」

「はい、うちのチーム、『セザキ』とのコラボ契約、取りつけたらしいです! 今、佐伯さんたち、本部長に呼ばれてます」

「そっか。取れたんだ」

さすが佐伯だ。
それに橋口さんに変えて正解だったのだろう。

ホッとしつつも、やっぱりちょっと複雑。

「あ。すみません。俺、無神経でした…。本当は加藤さんが行くはずだったのに」

山下くんはそう言って申し訳なさそうに謝ってきた。
その気遣いはうれしいのだけど、謝られるとそれはそれで辛いものだ。後輩に気を使わせている自分も情けなくなる。

「あ、ううん。そんなことないよ。とにかく良かったよね。佐伯と橋口さんのおかげだよ。私じゃ、きっとダメだったよ」

「いや。でも、あれってー」

「え?」

なにか言いにくそうにしている山下くんの次の言葉を促すように、私は目を見て問いかける。

「加藤さん、ちょっと来て下さい」

山下くんに腕を引かれ、給湯室へと連れて来られた。

「な、なに? どうしたの?」

「いや、俺は加藤さんが変えられたのはおかしいと思ってますよ。こんなのただのえこひいきじゃないですか! 佐伯さんは、自分がかわいがってる橋口さんに手柄を取らせたかっただけですよ。加藤さん、あんなに頑張ってたのに……俺、そこだけは納得してないですから」

山下くんの言葉に、涙がじわりと込み上げてくる。

「うん、ありがとう。私、山下くんのその言葉だけで十分だよ。嬉しい…ありがとね」

涙を拭いながらうつむくと、突然、腕を引かれてそのまま彼の胸へと抱き寄せられた。

え!?

「ちょ、ちょっと山下くん?」

「すみません…なんか、加藤さんの涙見たら抱きしめたくなっちゃって」

その瞬間、後ろから低い声がした。




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