こじらせカップルに愛の手を
「おまえら、何やってんだ」
うわっ!
この声は佐伯だ。
よりにもよって佐伯に見られるなんて。
私は慌てて山下くんから離れた。
佐伯の顔を見ることができず、床に視線を落とす。
「あっ、これ、誤解だから。抱き合ってたように見えたかもしれないけど……ちょっと私がつまずいちゃっただけだから。そうだよね? 山下くん」
苦しい言い訳をしながら必死にごまかす。
だって、山下くんはただ慰めてくれてただけなのに、私なんかと噂にでもなったら気の毒だ。
けれど、山下くんは佐伯を真っ直ぐに見て、挑発するような口調で言った。
「なんかマズかったですか」
「マズいに決まってんだろ? 二度と触んなよ」
佐伯はすかさず山下くんを睨みながらひと言放つと、私の腕を掴み黙って廊下を歩きだした。
「ちょっと、佐伯。どこ行くの!」
佐伯は何も答えずに、廊下をスタスタと歩いていく。
そして、誰もいない会議室に入ると、ガチャッとカギをかけて私を壁へと押え付けた。
「おまえ。あいつのこと好きなの?」
間近に迫る佐伯の顔に、私の心臓が騒がしく音を立て始めた。
なにこれ。
私、おかしい。
「いや、だから。さっきのはそういうんじゃなくて」
思わず目を逸らすと、佐伯は私の両手を掴んだまま、更に顔を近づけた。
「あいつを好きなのかって聞いてんだよ!」
「べ、別に好きじゃないよ」
至近距離で見つめられ、山下くんに抱きしめられたことなんてすっかり頭から飛んでいた。
その代わり、あの夜の光景がフラッシュバックのように浮かんできて、体中が火照ったように熱くなった。
「なら、簡単に触らせてんじゃねえよ。 ふざけんな、マジで」
佐伯は怒ったようにそう言うと、荒っぽく私の唇を塞いだ。
え!? 嘘……。
一瞬、なにが起こったのかよく理解できなかった。
私……佐伯にキスされてる。
「ちょ、ちょっと!!」
私は思いきり佐伯の胸を突き飛ばした。
「な、何すんのよ! だいたい、何で佐伯にそんなこと言われなきゃいけないのよ! よ、余計なお世話だから!」
私は会議室から飛び出して、そのまま女子トイレへと駆け込んだ。個室に入ると鍵をかけて、胸の鼓動が鳴りやむのを静かに待った。
やだ……私、佐伯が好きだ…。
今、その思いをハッキリと確信した。