こじらせカップルに愛の手を
その夜、『セザキ』との契約成立を祝って盛大に打ち上げが開かれた。
参加者はチームのメンバー十人に加え、お隣の営業第二部と企画部のメンバー、そして営業部長。
病み上がりとはいえ、さすがに顔を出さない訳にもいかず、私は隅っこの席でひとり静かにウーロン茶を飲んでいた。
チラリと、部長たちのいる席を見れば、橋口さんが佐伯の隣で楽しそうに笑っていた。
そんなふたりを見るだけで胸がズキンと痛みだす。
間違いなく私は佐伯のことを『好き』みたいだ。
「そんなに佐伯さんが好きですか?」
突然、かけられた言葉にハッとして声の方を向くと、いつの間にか隣に山下くんがすわっていた。
「え、別に、私は…。もう!なに言い出すのよ、山下くん」
慌てる私を見て、山下くんはフッと笑った。
「隠しても無駄ですよ。加藤さん、さっきからずっと佐伯さんのこと目で追ってるじゃないですか。バレバレですって」
「………そ、そっか」
山下くんにはバレバレなのか。
思わず苦笑いを浮かべると、彼は急に真面目な顔をして言った。
「でも、佐伯さんはやめておいた方がいいですよ。たぶん、橋口さんとできてますから」
「え?」
彼の言葉に大きく動揺した。
「最近、あのふたり、会社帰りに待ち合わせして一緒に帰ってます。俺、何度か見かけましたよ」
「そ、そうなんだ……」
頭の中が真っ白になる。
「それなのに、今朝は加藤さんにも気を持たせるようなことして。二股でもかける気なんですかね。騙されちゃダメですよ。加藤さん」
途中から、山下くんの言葉が何も入ってこなかった。
ふたりは付き合ってるの?
じゃあ、今朝のキスは何だったんだろう…。
ただ、それだけを考えていた。