こじらせカップルに愛の手を
打ち上げは九時にお開きとなった。
月曜日ということもあり早めの解散。
部長のタクシーを見送った後、皆なでゾロゾロと駅に向かって歩いていると、隣にいた山下くんが足を止めた。
「加藤さん、地下鉄ですよね? 俺、JRなんで。ここで」
「あ、うん。お疲れさま」
「はい。お疲れさまでした」
山下くんはにっこり笑いながら、改札の中へと消えていった。
私はひとりになるとすぐに佐伯の姿を探した。
今朝は、何であんなに怒っていたのか。
どうして、私にあんなキスをしたのか。
今更だけど、ちゃんと佐伯に確かめたいと思った。
佐伯も地下鉄だから、ここからはひとりになるだろう。そう思って待っていたけれど、佐伯はなかなか現れなかった。
おかしいな。
ついさっきまで、橋口さんと一緒にうしろを歩いていたはずなのに…
不思議に思いロータリーまで戻ってみると、タクシーに乗りこむふたりを見つけた。
「佐伯」
私は急いで駆け寄って、彼らのうしろのタクシーへと乗り込んだ。
「すみません!前のタクシーを追いかけて下さい!」
こんなドラマみたいなセリフを、現実に言う日が来るとは思わなかったけれど、とにかく、あのふたりの関係を自分の目で確かめなきゃと、必死だったのだ。
しばらくして、佐伯たちのタクシーはホテルの前で止まった。
『ミラーナホテル東京』。
都内にある高級ホテルだ。
ふたりはタクシーを降りて、そのままエントランスへと消えていった。
そっか。
山下くんの言った通り、ふたりはそういう仲だったんだ。
「お客さん? 着きましたけど」
運転手さんが振り向いて声をかけてきた。
「……すみません、やっぱり駅に戻って下さい」
それ以上、追いかける気にはなれなかった。