こじらせカップルに愛の手を
***
「美海ちゃんかい? よく来てくれたね」
ベッドに寝ていたおばあちゃんが、私の顔を見るなり嬉しそうに笑った。
私は週末を利用して、仙台にいるおばあちゃんのところに来ていた。この老人ホームを訪れるのは約半年ぶり。
転んで痛めた腰の方は良くなったようだけど、なんだか会う度におばあちゃんの体は小さくなっているように感じる。
「ところで、美海ちゃんの赤ん坊はいつ見せてくれるんだい? そろそろ結婚だって考えてるんだろ?」
おばあちゃんは目を輝かせながら言う。
本当に楽しみにしているようだ。
「えっと…。そうだね、来年くらいには結婚する…かな」
だから、つい嘘をついてしまった。
「そうかい、そうかい……来年、結婚するのかい。そりゃ、おめでたいねえ。美海ちゃんの赤ちゃん、楽しみにしてるからね」
おばあちゃんは顔をくしゃくしゃにさせて笑う。
「う、うん」
いけないと思いつつ笑顔で頷く私。
そんなやり取りを黙って聞いていた母は、何か言いたげな顔で私のことを見つめていた。
***
「まったく…。あんな適当なこと言って。どうするつもりなのよ」
実家へと向かう車の中で、母が呆れたように問いかけてきた。
そんな母に私はできる限り明るく返す。
「いや、だって。ガッカリさせるの可愛いそうだったし。それに、もしかしたら本当に来年、結婚できてるかもしれないじゃない」
「よく言うわよ。まだ、相手さえもいないんでしょ」
大きくため息をつかれてしまった。
「ま、まあね」
厳密に言えば、相手どころか好きな人さえいない。
ようやく恋心を自覚した途端、呆気なく失恋してしまったのだから。
「ねえ、美海…。お見合いでもしてみる?」
「え? お見合い!?」
驚く私に、運転席の母がフフっと笑った。
「実はね、お向かいの圭子おばちゃんが、あんたにって持って来た縁談があるのよ。お琴の先生の息子さんらしいんだけど、東京の商社にお務めのエリートなんですって。来週、お友達の結婚式でこっちに帰ってくるらしくてね。あんたさえよければ、会ってみないかって」
お見合いか…。
まあ、結婚相談所にでも申し込もうとしてた訳だし、同じようなものか。会ってみるくらいならいいかもしれない。
「うん そうだね。お願いしてみようかな」
本当に軽い気持ちだった。
そのひと言が、私の人生を大きく左右することになるだなんて、この時はまだ思いもしなかった。