こじらせカップルに愛の手を
マンションに着くと、佐伯は高級そうなワインを持ってきた。
「特別に飲ましてやるよ。感謝しろよ」
なんて笑いながら、生ハムやらチーズやら、気の利いたおつまみまで運んできて隣に座る。
おかげで、私はすっかりいい感じにできたあがってしまった。
「佐伯ってばズルイな~ こんな都心でこんないい暮らししてて、何だかズルイ! いったいお給料いくら貰ってるろよ~ 教えらさいよ~」
私がそう絡むと、
「まあ、おまえの倍くらいは貰ってるんじゃないか? おまえも早く俺に追いつけるといいな……って無理か。おまえ意外と鈍くさいもんな?」
なんて、からかわれ。
「なによ、も~! 今に見てらさいよね~」と、思い切り睨んだら、
「何だよ、呂律まわってねーじゃん。飲み比べはおまえの負け。今度の接待におまえはいりませーん」
と、佐伯にケラケラ笑われた。
「もう! 佐伯のいじわる」
佐伯に「いらない」と言われたら、何だか無償に悲しくなって、ポタポタと涙がこぼれ落ちた。
私はかなり酔っ払っていたのだと思う。
「おいおい、泣くなよ~」
佐伯が呆れたように笑いながら、私の顔を覗き込んだ。
「別に泣いてないよ」
プイッと顔を背けると、佐伯がフッと笑った。
「分かった分かった。慰めてやるからこっちこい」
佐伯は私の背中に手を回し、ギュッと抱き寄せる。
え?と一瞬思ったけれど、佐伯の胸の中があまりにも温かくて、気持ちよくて、私は黙って身を預けた。
すると、佐伯の唇がゆっくりと私に近づいてきて、私の目元の涙を吸い上げた。
ビックリしたけれど、それも嫌じゃなかった。
「もっとして…」
思わずそう呟いていた。
この辺から、私の言動もちょっとおかしくなっていた。
「いいよ。美海は甘えんぼうだな」
佐伯も私以上におかしかった。
そして、佐伯のキスは、涙の後を追うようにして頰から首筋へと移っていき。
「あっ、佐伯」
私が小さく反応すると、佐伯は私を優しくソファーに押し倒した。
「郁斗って、呼んでごらん?」
「いく…と」
「ん…。すげー可愛い」
掠れた声で言いながら、佐伯は私に口づけた。
佐伯が見せた男の顔に堪らなく体が疼いた。
「美海…。抱かせて」
甘く耳元で囁かれ、私は思わず頷いてしまったのだ。