こじらせカップルに愛の手を
夜の十二時を過ぎ、二次会を終えてようやく解散となった。
俺はタクシー乗り場へと向かう加藤を追いかけ、彼女の後ろにスッと並んだ。
「おまえ、最近酒弱くなったんじゃねーの? 結構足もフラフラじゃん。今度の接待は無理してこなくていいぞ。飲めないと話になんないからな」
結局、こんな言葉しか出てこなかった。
「何よ、私、全然酔っ払ってなんかないし! そういう佐伯だって茹でだこみたいに真っ赤じゃない! 佐伯こそこなくていいよ」
負けじと加藤も言い返してきた。
これじゃいつもと変わらない。
とにかく、ゆっくり話せるに場所に誘わなければ。
「なら、俺とさしで勝負するか?」
よし、これだ!
負けず嫌いの彼女にはこの手しかない。
「え。飲み比べってこと? 別にいいけど」
思惑どおり彼女は挑発に乗ってきた。
「じゃあ、決まりだな。よし、今からうちで飲むぞ」
急に、しかもうちで飲もうと言ったものだから、加藤は少し躊躇していたようだけど、俺は彼女の気が変わらないうちに、さっさとタクシーに乗せてマンションへと向かった。
───
──
『お邪魔します』
加藤はキョロキョロしながら、リビングに入ってきた。
「その辺、適当にすわってて」
キッチンでつまみを用意しながら、彼女に声をかけた。
それにしても、思わず家になんて連れ込んでしまったけど、こんな状況で俺はちゃんと理性を保てるのだろうか。
そして、きちんと例の話ができるのだろうか…。
若干、不安を感じつつ、ワインを持って彼女の元へと向かった。
「特別に飲ましてやるよ。感謝しろよ」
少しもったいぶるように、ワインを注いだグラスを彼女に手渡した。
「ふーん なんか、高そうなワインみたいだけど。私、たいして味、わかんないや~」
ひと口飲んで、ヘラヘラと加藤が笑った。
「何だよ、勿体ねえな。返せ、こら」
俺は彼女のグラスを取り上げるフリをした。
「ちょっと、零れるから~」
ワイングラスを持ち上げながら、ケラケラと笑う彼女。
「ったく。おまえにはやっすいので十分だったな」
「うそうそ、おいしいよ、これ。まろやかでフルーティー? やっぱり高いと違うね~」
「嘘くせえな」
なんて、結局、彼女とふざけ合いながら楽しく飲んでしまっていた。
そして、どんどん加藤は酔っ払っていき、完全に切り出すタイミングを失ってしまった。
「あのさ、加藤。実は今度の接待なんだけどな」
「佐伯ってばズルイなあ~。こんな都心でこんな贅沢な暮らししてて。何だかズルイ! いったいお給料いくら貰ってるろよ~、答えらさいよ~」
もはや、こっちの話なんて聞いちゃいない。
「まあ、おまえの倍は貰ってるんじゃない? 早く俺に追いつけるといいな…って無理か。おまえ、意外と鈍くさいもんな」
そういうと、彼女は悔しそうに言い返してきた。
俺はついおもしろくなって、『飲み比べはおまえの負け。今度の接待におまえはいりませまーん』と返したのだが、彼女が突然泣き出してしまった。
しまった。
ちょっとからかいすぎたか。
「おいおい、泣くなよ~」
「別に、泣いてない!」
この辺から、ヤバいとは思っていた。
「わかった、わかった。慰めてやるからこっち来い」
必死に涙を堪えるその顔に、理性はいとも簡単に崩れ落ち、気づけば彼女を抱きしめていた。