こじらせカップルに愛の手を
そして、彼女の目もとの涙にそっと唇を這わせた。
「もっとして……」
つぶやくような甘えた声が返ってきた。
そのまま頰から首筋へとキスをして、彼女の体をソファーへと押し倒す。
……もう止められなかった。
可愛くて、愛しくて…。
唇を重ねると、波長が合ったような不思議な気分になる。
俺はその瞬間、彼女の耳もとで囁いた。
『美海……。抱かせて』
小さく頷いた彼女を優しくすくい上げ、ベッドルームへ……。まるで夢を見ている気分だった。
「美海」
彼女の名前を何度も呼びながら、夢中で彼女を愛した。
「好きだよ…」
最後に、ずっと言えなかった言葉を口にした。
彼女が幸せそうに微笑んだから、7年越しの想いがようやく通じたのだと嬉しかった。
けれど、翌朝になると、彼女は気まずそうに言った。
「ま、まあ……昨日はお酒も入ってたしね。事故ってことで、いいんじゃない…かな」
何だよ、それ。
ガクッと気が抜けた。
彼女にとっては、酔った勢いでの「一夜の過ち」だったようだ。
さすがにショックが大きくて、しばらくは何も手につかなかった。
──
そして更に、彼女は会社でも俺を避けてきた。
事務連絡でさえ、メモを置いて逃げていく。
そのくせ、後輩の山下とは休憩室で楽しそうに笑っていた。
イライラがピークに達し、俺は彼女を会議室へと呼び出した。
「いい加減にしろよな!」
「ずっと俺のこと避けてるだろうが! あの日のことは事故にして解決したんじゃねえのかよ! こういうのホントやめてくんねえかな」
「せめて仕事の連絡くらい、直接言いに来いよな」
まくしたてる俺に彼女はこう返してきた。
「ごめん。これから気をつけるよ。でも、最近、佐伯も忙しそうだったじゃない。橋口さんのお相手で」
「は?」
「あ、いや…。違くて」
彼女の頰がみるみる赤く染まっていった。
まさか、ヤキモチ!?
そうか。
あの日は照れてただけか?
そう思った俺は彼女の頰に手を伸ばした。
「おまえ、もしかして妬いてんのか? あーだから、俺のこと避けてた訳か。何だよ、俺のこと好きなら素直にそう言えよ」
けれど、その手はパッと弾かれた。
「はあ? まさか、冗談でしょ? 佐伯だけは絶対にあり得ないから自惚れないで!』
そこからは、売り言葉に買い言葉。
「たかが1回寝たくらいで、いちいち大袈裟なんだよ。いい年した女が仕事に支障きたしてんじゃねえよ」
終いには、そんな暴言を吐き捨てて会議室を出てきてしまった。
さすがに言い過ぎたと思った。
彼女がひどく傷ついた顔をしてたから。
何やってんだよ、俺。
彼女が思い通りにならないからって…。
ほんとバカだ。
デスクに戻った後、俺は深くため息をついた。