こじらせカップルに愛の手を

「何だって? お母さん」

電話を終えた私に、佐伯がそう尋ねた。

「うん。とりあえず佐伯を連れて家に来なさいって先に言われちゃった。お父さんと二人で待ってるからって。なんかもう、全部知ってる感じだった」

「そっか。結構、怒ってる感じ?」

「母は普通だったけどね。多分、父が」

そう、とにかく、父は筋の通らない事を嫌う人だから。

「まあ、あんなやり方で見合いをぶち壊したんだから当然だよな」

佐伯が苦笑いを浮かべた。

「ねえ、佐伯。やっぱり、今日は会わないで帰った方がいいかもしれない。うちの父、キレるとすごく怖いの。もしかしたら、佐伯のこと殴っちゃうかもしれない」

涙目になっていると、佐伯は私を優しく抱き寄せた。

「殴られる覚悟なんて初めからできてるよ。大丈夫。ちゃんと謝罪して、美海とのこと絶対認めてもらうから」

「佐伯」

佐伯の背中をギュッと掴んだ。

「いざとなったら、ふたりで駆け落ちしようね」

思わずそんなセリフまで呟いていた。

とにかく、それくらい決死の思いで実家へと向かったのだけど…。

いざ佐伯を連れて帰ってみると、父も母も怒っている様子などまるでなく、どう見ても浮かれて喜んでいるようにしか見えなかった。

「いや~、君が噂の佐伯くんか~。まさかこんなにハンサムだとは思わなかったな~」

「ほんとよね。こんな素敵な人が美海を追いかけてきてくれるなら、嘘もついてみるものね」

ふたりは佐伯のことを見つめながら、そんな訳の分からぬことを呟いていた。

「まあまあ、とにかく上がってよ。佐伯くん」

ニコニコしながら父が言う。

「そうそう、ごちそうも張り切って用意してあるのよ。さあさあ、中へどうぞ」

母も佐伯の腕を掴みながら微笑んだ。

「あ。はい。では、お邪魔…致します」

完全に謝るタイミングを失った佐伯は、そう言ってリビングへと上がった。

この不可解な歓迎ムード。
いったい、どういうことなのだろう。

「ね、ねえ。どうして、そんなにふたりとも嬉しそうにしているの? それに、お母さんの『嘘もついてみるものね』って、どういう意味?」

恐る恐る、そう尋ねると、母から衝撃的な言葉が返ってきた。

「あー 実はね…今回のお見合いは、初めから全部嘘だったのよ。ごめんなさいね。ふたりとも」

「「え!?」」

ペコリと頭を下げる母に、私と佐伯は思わず顔を見合わせた。

「ど、どういうこと!?」

「おまえの友達のなんとかさんが電話くれたんだよ」

父が横からそう言った。

「なんとかさん?」

「大柴さんよ。あんたとルームシェアしてるお友達の」

「一華!?」

母の言葉に絶句する私と佐伯。

どうやら、今回のお見合いは“私と佐伯をくっつける為の作戦”だったようだ。

そして、この作戦の首謀者が一華と大野くんだったのだ。

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