こじらせカップルに愛の手を
そして、私達は佐伯のベッドの上で朝を迎えた。
「ふーん、事故ね。おまえがそう言うなら、それでもいいけど…」
佐伯は服を着ながら、素っ気なくそう答えた。
「う、うん。よろしくね。あ、じゃあ、私…そろそろ帰ろっかな」
「車で家まで送ろうか?」
「いい、いい! 駅まですぐそこだし。大丈夫だから!」
私はブルブルと大きく首を振った。
とにかく、今は一刻も早く佐伯の前から逃げ出したかったのだ。
だって、よりにもよって佐伯とあんなことを。
恥ずかし過ぎて消えてしまいたい。
私は急いで服を着ると、勢いよく佐伯のマンションを飛び出したのだった。
***
「一華、大変なの!」
私は家に帰ると、ルームメイトの大柴一華(おおしばいちか)の部屋をノックした。
彼女も私の同期で、5年ほど前からルームシェアをして一緒に暮らしている。
「はいはい。今、開けるから」
ようやく扉が開いて一華が部屋から出てきた。
「一華~」
「何が大変なのよ」
「それがね、一華。落ち着いてきいて! 私ね、昨日、佐伯とシちゃったのよ」
「ふーん」
「え、驚かないの? 私と佐伯だよ!?」
一華の反応の薄さに私はキョトンと首を傾げた。
「別に…。っていうか、やっとくっついたかって感じ」
「いやいや、やめてよ、くっつく訳ないでしょ! あいつも私もお酒にやられて、おかしくなっちゃっただけなんだから。でもね、そうは言ってもシしゃった訳だしさ、めちゃめちゃ気まずくてね。どうしよう」
「はあーー!? あんた、この後に及んで、まだそんなこと言ってるの!?」
「何が?」
私が小首を傾げると、
「一華… 温かく見守ってやろうよ。今に始まったことじゃないんだし」
一華の部屋から、彼氏の大野くんが出てきた。
大野純平(おおのじゅんぺい)
彼もまた、私達の同期だ。
「お、大野くん!? いらっしゃい。泊まってたのね」
「悪いな、加藤」
「あ、ううん。全然」
そっか。
昨日は「泊まってくる」とだけ、一華に連絡したけれど、一華も大野くんを泊めてたんだ。
それなら、こんなに早く帰ってきちゃマズかったよね?
あー。だから、一華も機嫌が悪いのか。
ごめん、一華。
心の中で謝っていると、
「まあさ、それでも大きな一歩だよな」
大野くんは意味不明な言葉を呟きながら、ニンマリと笑っていた。