こじらせカップルに愛の手を

「それにしても… 一華たちにはすっかり騙されちゃったよね」

佐伯の布団に潜り込んだ私は、彼の胸に甘えながらポツリとそう呟いた。

ここは実家の私の部屋。
今夜は佐伯にも泊まって貰うことになり、急遽私の部屋に布団をふたつ並べたのだ。

「この年で、危うく駆け落ちまでするとこだったよな」

佐伯が思いだしたようにプッと笑った。

「も~、私も必死だったんだから、仕方ないでしょ」

からかう佐伯を睨みながら、私は彼の胸をポカンと叩いた。


二週間前、ちょうど私が風邪でダウンしていたあの日に、一華が私の実家に電話をかけたのだそうだ。

一華は、私と佐伯が七年も両思いをこじらせている現状を伝え、今回のお見合い作戦をうちの親に持ち掛けたらしい。

因みにお見合い相手の篤志さんは、一華のお兄さんだったようで、名前も経歴も変えて私達の為に一肌脱いでくれたのだそうだ。

「でもさ… 本当によかったの? うちの親は、もう佐伯のことを婚約者だと思ってるよ。明日もおばあちゃんに紹介するって言ってたし」

私は嬉しかったけれど、佐伯はどうなんだろうかと不安になった。

大野くんにお見合いのことを聞かされて、勢いで来てしまったところもあるんじゃないかって思ったから。

「あのな…結婚する気がなかったら、見合いなんかぶち壊せる訳ないだろ? 覚悟なんてとっくにできてるよ」

「そっか…」

ホッとして笑うと、佐伯が耳元で力強く言う。

「絶対幸せにする」

「うん」

「一生大事にするから」

「うん」

「俺についてきて」

胸がキュンとなった。
どうしよう。
怖いくらい幸せだ。

幸せを噛みしめながら大きく頷くと、佐伯は私をギュッと抱きしめた。

「フフ…なんか佐伯の胸ってあったかいね。幸せ」

「なあ、美海…そろそろ俺のこと郁斗って呼ばない?」

「あっ、うん。そうだね」

「ほら、言ってごらん」

「郁斗」

「ヤバい。マジで可愛いな」

佐伯はとろけるようなまなざしで見つめると、私の唇にチュッとキスをした。
 
「ハハ…。もう、郁斗って彼女にはいつもこんな甘ったるいの?」

「さあ、どうだろうね。昔過ぎて思い出せないけど…」

「ねえ、それなんだけどさ…。郁斗って、ホントに七年間も彼女いなかったの? 入社当時からあんなにモテてたじゃない」

本当にそれだけが不思議だった。
さっき、一華も電話でそう教えてくれたけれど。


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