こじらせカップルに愛の手を
「まあ…。遊びの子ならいたけどな」
ポツリと郁斗が答えた。
「そ、そっ…か。やっぱりいたんだ…」
ズキンと胸が痛んだ。
訊かなきゃ良かった…
何でこんなこと訊いちゃったんだろう。
「って言ったら、そんな顔になるんだ?」
「え?」
顔を上げると、郁斗がククッと笑っていた。
「え…嘘なの!?」
「嘘に決まってるだろ? 俺はずっと美海しか見てないよ。ついでに言うと、美海に変な虫がつかないように見張ってた」
「変な虫?」
首を傾げる私に、郁斗はこう続けた。
「美海には申し訳ないけど、今までおまえに近づいてきた男は、全部俺が追っ払ってたから」
「えっ、そうなの!? でも、私に近づいてきた人なんていたかな…。全く心当たりないけど」
「いや、何度もお持ち帰りされそうになってたぞ。おまえ…」
「うそ…」
「最近だと、山下か」
「え!?」
「えって、おまえ、さすがに山下の好意くらいは気づいてただろ?」
私がブルブルと首を横に振ると、郁斗は呆れたように言った。
「あいつに抱きしめられてたじゃん…。ムカつくからあんま思い出したくはないけど」
「あ~あれは…私が『セザキ』の件で落ち込んでたから、慰めてくれてただけだよ。山下くん、優しいから」
「ふーん」
「な、なに?」
「おまえは、もう俺以外の男と接触禁止だな。笑ったり話したりすんなよ。じゃ、おやすみ」
それだけ言うと、郁斗はプイっと背中を向けてしまった。
「ちょっと…待って!それ、現実的にムリだから」
「知らね。鈍感女にはそれくらいで丁度良いんじゃない」
「そんな…」
素っ気なく言われて悲しくなった。
何でこんな喧嘩みたくなっちゃたんだろう。
ようやく思いが通じて幸せな夜だったのに。
グスンと涙ぐむと、郁斗の手が私の頰に伸びてきた。
「俺に機嫌なおして欲しい?」
「うん」
私は郁斗の言葉にコクコクと頷いた。
「じゃあ…月曜日にあいつにちゃんと言って。俺と婚約したから、もうちょっかい出してくんなって」
「そんな自意識過剰みたいなこと…」
ジロリと郁斗が睨んできた。
「わ、分かったから」
凄く気が引けるけれど、それで郁斗が安心するのなら仕方ない。
「ちゃんと言うから」
私がそう言うと、郁斗が優しく笑った。
「ん…なら許してやる」
ギュッと抱き寄せられて、再び郁斗の胸に包まれた。
「おやすみ。美海」
そう言って私のおでこにキスを落とすと、郁斗はスッと目を閉じた。
「え…あれ? もう寝ちゃたの!?」
スースーと寝息を立てる郁斗に、思わず笑ってしまった。
そりゃ、そうか。
今日は仙台までの距離を車飛ばして来てくれたんだもんね。
「ありがとね…郁斗。おやすみなさい」
私は眠っている郁斗の唇にそっと口づけた。