こじらせカップルに愛の手を
***

『そうかい、そうかい… あんたが美海ちゃんのお婿さんかい。嬉しいね~ 長生きもしてみるもんだね~』

郁斗を見たおばあちゃんは、涙を流して喜んでくれた。

『赤ちゃん、楽しみにしてるからね』

そして、帰り際、そう言って笑っていた。

──

「ありがとね、郁斗。おばあちゃん、凄く嬉しそうだった」

帰りの車の中で、私はホッとしながらそう言った。

「そうだな。赤ちゃんも早く見せてやりたいよな」

「うん。母も私もひとりっ子だし、見せてあげられるのは私しかいないからね」

「今、おばあちゃんっていくつだっけ?」

「確かもうすぐ88になるはず。今度米寿のお祝いするって言ってたから」

「そっか。じゃあ、今夜から早速始めないとな」

郁斗が運転席からチラリと私を見た。

「え? 何を」

「子作りに決まってるだろ?」

「え、ちょっと待って。私たち、いくら婚約したとは言っても、さすがに早いよ」

「そんな悠長なこと言ってたら、おばあちゃんが生きてるうちに見せてやれないぞ」

「でも、結納だってまだだし、子作りはちゃんと籍を入れてからじゃないとダメ。そういうのうちの父煩いから」

そう、父は順番が大事だと言っていた。
何年か前、バージンロードを大きなお腹で歩いていた従妹を見て物凄く怒っていたのだ。

「籍だったらすぐにでも入れられるけど…。俺、美海のお父さんから婚姻届預かってるし」

「は!?」

郁斗の言葉に思わず声をあげた私。

「い、いつ、そんなやり取りしたの!?」

「さっきだよ。老人ホームで美海がトイレに行ってた時に、保証人欄の入った婚姻届をお土産と一緒に渡されたんだよ。『早く孫の顔を見せてくれ』って」

「うそ…。信じられない」

「お土産の中身も『うなぎ』みたいだったしさ。ここまでされて期待に応えなきゃ悪いだろ?」

郁斗が笑った。

「も~意味分かんない。うちの親」

私はあまりの恥ずかしさに、もう何も言葉がでなかった。


───
──


「それにしても、そこまで上手くいっちゃうとはね」

「なんだか随分、色んなことをすっ飛ばしたなあ」

マンションに戻り、入籍することを一華と大野くんに報告すると、2人は目を丸くして驚いていた。

「まあ、そういう訳で、美海は俺のマンションで暮らすことになったから。悪いけど大柴とのルームシェアは解消させてもらえるかな?」

郁斗が一華に切り出した。

「あ…うん。それはもちろん」

「ごめんね、一華。家賃だけは暫く払うから」

「いいよ、いいよ。大丈夫。大学の時の友達にでも声かけてみるから。ここ駅近だし、意外と人気あるみたいよ」

すると、郁斗が突然、大野くの背中をポンと叩いた。

「おまえさ、ここで『俺と住もう』くらい言えねえの? いつまでもダラダラ付き合ってないで、そろそろ男らしく決めろよな」

「「は?」」

一華と大野くんが揃って郁斗を見た。

「いや…おまえにだけは言われたくない」

「ホント…どの口が言ってるんだか」

ふたりが呆れたように口にした。

「何だよ」と不満そうな郁斗。
そんな郁斗に大野くんが再び返す。

「あのさ、俺はおまえの愚痴に何度付き合ってやったっけ。おまえのヘタレ発言、加藤にバラしてやろうか?」

「あー分かった、分かった。とりあえず色々世話かけたな。じゃあ、そろそろ俺ら行くから、あと宜しくな」

バツの悪くなった郁斗は、そう言って逃げるようにマンションを出ていったのだった。


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