こじらせカップルに愛の手を

***

こうして私達は、本当に色んな事をすっ飛ばして、晴れて夫婦となった訳だけれど…。

会社でこのことを知っているのは、まだごく一部の人間しかいない。

人事部長と山下くんだけだ。

私が旧姓のまま仕事を続けているせいもあるのだけれど、一番の原因は、私たちが報告するタイミングを失ってしまったからだ。

実は入籍した翌日のこと。
私は人事部長に呼ばれて、正式に『副リーダー』という役職を与えられた。

どうも佐伯が裏で動いていてくれたようで、何故かアシスト賞という賞まで贈られて、その夜、チームのみんながお祝いの会を開いてくれた。

ちょうど絶好のタイミングだったから、そこで入籍のことをちゃんと発表する筈だったのに。

誰かがこんな事を言ったのだ。

『二人って、実はできてたりするんじゃないですか~? あんなに息ピッタリの夫婦漫才なんて、そうそうできないですよ~』と

だから、つい…。

『まさか~、私と佐伯なんて地球がひっくり返ってもないから。こんなの、ぜんっぜん、タイプじゃないしね』

なんて、いつもの癖で、そんなことを言ってしまった。

ハッとした時は遅かった。

『あーそうかよ。こっちだって、こんな男勝りのアラサー女、例え無人島で二人きりになったって手ださねえわ』

と、郁斗まで。

ケラケラ笑う皆なを前に、もう引っ込みもつかなくなってしまった。

だから、一ヶ月が経った今でも…。

「おい、加藤! 見苦しいから胸のボタンとめとけよ。誰もおまえに色気なんか求めてねーから」

「何よ、ただとめ忘れてただけでしょ! こっちだって、あんたにだけは頼まれたって見せないわよ」

と、まあ、こんな感じで、未だにいがみ合う同期を演じているのだ。

でも、帰って来てで二人きりになれば、

「美海。今日はごめんな。でも、他の奴に見られるといけないから、ちゃんとボタンは閉じておこうな。見ていいのは俺だけだからな」

なんて言いながら、郁斗は私を抱きしめてきて、

「分かってるよ。教えてくれてありがとね」

と、家では私も郁斗の胸に甘えてたりする。

こんな現状を一華たちは呆れているけれど、当分の間は、このままでいくつもりだ。

「そう言えばさ…。さっき、美海の実家から荷物が届いてたよな? 中身は何だったの?」

「あ~あれはね…例の」

口ごもる私に郁斗が耳元で呟いた。

「うなぎか?」

コクリと頷くと、郁斗がプッと吹き出した。

「そのうち、マムシドリンクとか送ってきそうだな」

「なんかごめん…。露骨な親で」

「ハハ…じゃあ、今夜もがんばらないとな」

郁斗は私を抱きしめながら、優しく微笑んだのだった。



 [完]

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