こじらせカップルに愛の手を

それから2日後の水曜日。
結局、あの日から佐伯とは言葉を交わしていない。
というか、私が全力で避けている。
 
「あ、加藤さん、ここにいたんですね」

休憩室でひと息ついていると、山下くんが缶コーヒーを片手にやって来た。

「うん、山下くんも休憩?」
「はい… ちょっと眠気覚ましです」

山下くんはそう言って、私の隣に腰掛けた。

「あの、さっき佐伯さんが探してましたよ」

「あー うん。そっか……」

気のない返事を返すと、山下くんは心配そうに私を見つめた。

「加藤さん、佐伯さんと喧嘩しました?」

「え? あー、佐伯とは万年喧嘩中だからね。同期だけど相性悪くて」
 
苦笑いを浮かべてそう答えると、山下くんは意外なことを言い出した。

「そうかな。加藤さんと佐伯さんは息ピッタリですけどね。毎日、楽しそうに夫婦漫才なんかして」

「夫婦漫才って。そんな風に見える!?」

「見えますよ。それなのに月曜くらいから、加藤さんは佐伯さんのこと避けてるし、よそよそしいですよね? もしかして、プライベートでなんかありました?」

うっ。
山下くんは意外と鋭かった。
そして、思ったことはストレートに口にしてしまうタイプらしい。

「いやいや、何もないから」

必死に否定する私に、山下くんは体を寄せてこう言った。

「もしかして、橋口さんに遠慮してるんですか?」

「橋口さん? どうして?」

「いや、だって。 最近、橋口さんと佐伯さんって…」
 
「おい、加藤!」

話の途中で、休憩室のドアがガチャと開いた。
振り向くと、ムスッとした顔の佐伯が立っていた。

「え、何?」

「お取込み中悪いけど、話があるからきてくれる?」

「あ…うん」

「じゃ、第二会議室な」

「分かった」

佐伯はそれだけ言うと、さっさと休憩室を出て行った。
私は大きくため息をつきながら、ゆっくりと立ち上がった。



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