こじらせカップルに愛の手を
「おまえさ、いい加減にしろよな!」
二人きりの会議室。
佐伯は壁に両手をついて、私を見下ろしながらそう言った。
「な、何のこと?」
心辺りは十分にあるけれど、私は佐伯から目を逸らし小さく呟いた。
それにしても、近い。
佐伯の顔がすぐそこだ。
これじゃ、あの夜のことを思い出してしまいそうだ。
なんて、ひとりでゴチャゴチャ考えていると、次のカミナリが落ちてきた。
「惚けんなよ! おまえ、ずっと俺のこと避けてるだろうが! あの日のことは事故だったことにして解決したんじゃねーのかよ。こういうのホントやめてくんねえかな?」
佐伯はかなりご立腹のようだ。
「あ、いや…。うん」
「せめて仕事の連絡くらい直接言いにこいよな。わざわざメモなんか使わないでさ」
ごもっともなご意見だ。
私が悪い。
「ごめん。これから気を付けるよ。でも、最近、佐伯も忙しそうだったじゃない。橋口さんのお相手で」
やだ、口が勝手に。
「は?」
「あ、いや…。違くて」
私は何を言っているんだろうか。
慌てて首を振ると、佐伯がニヤリと口元を緩めた。
「もしかして、おまえ、妬いてんのか? あーだから、俺のこと避けてた訳か。何だよ、俺のこと好きなら、素直にそう言えよ」
そう言って、佐伯は私の頰に手を伸ばしてきた。
でも私は咄嗟に、その手を振り払った。
「はあ? まさか! 冗談でしょ? 佐伯だけは絶対にあり得ないから、自惚れないで!」
すると、
「あっ、そ。こっちだって、こんな可愛いげのないアラサー女、興味なんかねーんだけど。俺はもっと可愛くて若い子がタイプなんだよ。おまえこそ自惚てんじゃねーよ」
と、倍になって返ってきた。
そして、更に続ける。
「たかが一回寝たくらいでイチイチ大袈裟なんだよ。いい年した女が仕事に支障きたしてんじゃねーよ」
佐伯はこんな暴言まで吐いて、会議室を出て行ったのだ。
思わぬダメージを食らった私は、しばらく呆然とその場に立ち尽くしていた。