こじらせカップルに愛の手を
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私は会社の帰りにコンビニに寄って、缶ビールとおつまみを買った。
だって、こんなの飲まなきゃやってられない。
佐伯への怒りが沸々とこみ上げてきた。
何が『一回寝ただけ』よ!
そりゃあ、自分はモテるだろうから、よくあることなのかもしれないけど、私にとっては大ごとなんだから。
ふん!
アラサー女が大騒ぎして悪かったわね!
ブツブツと文句を呟きながら歩いていると、バックの中のスマホが鳴り出した。
電話は仙台にある実家からだった。
「もしもし?」
『あー 美海?』
「お母さん? どうかしたの?」
『うん。実は、昨日ね、老人ホームからおばあちゃんが転んだって連絡がきてね、病院に連れて行ったのよ』
「え!? おばあちゃん、大丈夫なの?」
『腰を痛めたみたいで、1週間ほど安静にしてれば治るって言われたんだけど、本人はすっかり弱気になっちゃっててね。早くあんたの赤ちゃんを見たいって、そればかり』
「赤ちゃんって… まだ、相手さえいないのに」
思わず苦笑いをすると、
『え…。やだ、あんた。付き合ってる人もいないの?』
母の呆れた声が返ってきた。
「そうだけど」
『も~ お隣のゆきちゃんなんか、もうすぐ二人目が産まれるそうよ』
「へえ…」
『へえじゃないわよ。あんたも、いい年なんだから、そろそろ真剣に相手を探さないとダメじゃない。おばあちゃんじゃないけど、早く孫の顔でも見せてちょうだいよ』
「はい、はい…分かってますって」
とても、耳が痛い。
『まあ、とにかく、そういうことだから。暇を見つけて顔出してあげてね』
「うん、分かった」
『じゃあ、切るわね』
「うん」
赤ちゃんか……。
おばあちゃんにも早く見せてあげたいけれど、こればっかりは、さすがにね。
私はため息をつきながら、電話を切った。