こじらせカップルに愛の手を
「ただいま」
「あ、お帰り。美海」
家に帰ると、一華はリビングでテレビを見ていた。
「遅かったね。今日も残業?」
「うん。今ね、大きな契約が取れるかどうかの瀬戸際で。それの準備。それより、一華。ビール買ってきたから一緒に飲まない? もう今日は、佐伯にカチンときちゃったからさ」
コンビニの袋から缶ビールを取り出しながらそう言うと、一華が真剣な顔で私を見た。
「あのさ。美海」
「なに?」
「私達、もうすぐ三十だよね。結婚とか、子供とか、そういうの真面目に考えなきゃいけない年だよね? あんた、ちゃんと分かってる?」
何だか、今日はそんな話ばっかりだ。
「分かってるよ。さっきも実家の母に心配されたしね」
私は思わず苦笑いを浮かべる。すると、一華はいきなり私の腕を掴んできた。
「だったら、尚更、そんなくだらないケンカしてる場合じゃないじゃない! もういい加減、佐伯と」
「いやいや、今日の佐伯はホントに酷かったんだって! 佐伯、私になんて言ったと思う?」
そんな私の言葉に、一華は諦めたように、はあーっとため息をついて言った。
「いいわよ、分かったわよ! この際、あんた達のこじらせ具合、とことん私が聞いてあげるから!」
そして、ビールをグイッと流し込み、挑むような目つきで私を見たのだった。