こじらせカップルに愛の手を
うー、頭が痛い。
結局、明け方近くまで一華と飲んでしまった。
いい年をしたアラサー女が週中に飲むもんじゃない。翌朝、痛いほど思い知らされた。
『ほんとあんた達って中学生みたい。いや、小学生レベルかも』
昨日、一華に佐伯とのことを全て話したら、思い切り呆れられてしまった。
そして、こんなことを言われた。
『とにかくさ、何がそんなにショックだったのか、何でそんなにイライラするのか、よーく考えてみなさいよ』
一華は、まるでその答えを知っているかのような口振りだったけれど。
うーん。
私は何がそれほどショックだったのだろうか?
『たかが一回寝ただけで』
多分、佐伯のこの言葉に深く傷ついたのだ。
あれ。でも、何で?
そもそも、私が佐伯を避けていたのは、普段憎まれ口を叩き合っていた同期と、うっかり体の関係なんて持ってしまい気まずかったからだ。
無かったことにして貰えれば、こっちだって都合がいい筈なのに。
何故、これ程までにショックだったのだろうか。
そして、最近のこのイライラは何だろう?
私とあんなことをした佐伯が、何事も無かったように橋口さんと楽しそうにしていたから?
いやいや。
それじゃ、まるで私が佐伯のことを好きみたいじゃない!
それだけは、絶対にあり得ないのだけれど。
こんな矛盾だらけの自分がよく分からなくなってきた。
結局、なんの答えも出せないまま、モヤモヤとした一日が過ぎていった。
***
佐伯さんの家に泊まってから、ちょうど一週間が経った金曜日。いよいよ、『セザキ』の接待の日を迎えた。
「あの、加藤さん。ちょっといいですか?」
お昼休み、廊下で橋口さんに呼び止められた。
「どうしたの?」
笑顔で振り向いた私に、彼女は信じられない言葉を告げてきた。
「今日の接待、加藤さんの代わりに私が行くことになりました」
「え! 何で?」
「佐伯さんに頼まれたんです」
「佐伯に!?」
「はい。じゃあ、そいうことなので。 失礼します」
橋口さんはにっこり笑うと、クルリと向きを変えて去って行った。