幻奏少女
幽かな期待と探り合い
こん、こん。
「恭哉様」
午後7時。
精神的にも激しく疲れていた僕は、はぁ、と間の抜けた声を返した。
いつもなら、夕食をどうするかという会話をして終わり。
……会話と呼んでいいものかさえ、謎だけど。
けれど、珍しく。
それで話を切り上げようとした僕を、執事が引き留めた。
「あの」
「何?」
「誰か、いらっしゃるのですか」
思わず動きを止めた。
努めて動揺がバレないよう、精一杯、平静を装う。
「僕1人、だけど」
「そうで御座いますか。……話し声が、聞こえた気がしたもので」
動けないままの僕と対照的に、執事は何事もなかったかのように夕食を置くと、いつもと大差ない様子で立ち去った。