幻奏少女
「そうだよ」
っていうか、彼女は誰なんだろう。
好きでもない僕の名を、なぞるように呟く彼女を横目で見ながら、僕はため息をついた。
壁に掛かった時計の針が、指し示すのは3時半。
夜の帳に包まれた、静かなる闇に紛れこむ、異様な気配に感付いて、もともと眠りの浅い僕は目覚めたのだった。
そして、窓際に見たことのない美少女がいるのに気付いたんだ。
で、彼女の第一声が、“死んで”。
──死ぬのは、いい。
かまわない。
僕は、いらない存在だから。
だから、どうか、僕を殺して。
「人違いかなぁ……」
狂気のような僕の思考を、断ち切るように彼女は言って、僕を見上げて手をあげた。
そして、何かを指し示す。