幻奏少女
聞いていられなくて、その場をあとにした。
きっと帰りの時間をいつも訊かれてたのは、こういうのに遭遇するのを避けるためだったんだろうとぼんやり思った。
その足で、そっと書斎に忍びこむ。
きっと仕事の途中で来客があったんだろう、書斎は鍵がかかってない上、机の上にはファイルやコピー用紙が散らばっていた。
机を漁れば出てきた僕の資料。
そこで知った事実。
知らなかった秘密。
──僕だけが、異母兄弟だったんだ。
母はとうに亡くなっていて、身寄りのない僕を、父が仕方なく引き取った。
施設に入れなかったのは、世間体を気にしたから。
僕のことは、まことしやかに噂になっていたらしい。