幻奏少女

突然の乱入者、彼女はメイド見習い。

名前は、知らない。


たぶん彼女は、僕の専属執事と仲がよくて、彼を通して猫耳カチューシャを贈ってきたり、今みたく押し掛けてきて僕を女装させようとしたひとだ。

……要は、ろくなひとじゃない。


けど、今回は珍しく、持ってきたのは見たことのないスイーツ。

チョコレートの下地に生クリームやら何やらをトッピングした、小さなケーキみたいなもの。


「何これ?」

「料理人の佐藤さんが、新作だって。だからお持ち致しました」

曖昧な敬語で、ニコニコ笑顔で。

彼女はいとも簡単に、僕の壁を壊す。


引きこもって、人との接触を避けていた僕のなかに、あっさりと。


……朔羅も。

何でか、わかんないけど。

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