幻奏少女
「そういえば名前、何?」
「…………」
「……寝ちゃった?」
「……さ」
「?」
「朔、羅……」
朔羅……サクラ。
窓を通して差す月光は、僕を抱き枕代わりに寝る彼女を、白く浮かび上がらせていた。
桜色の唇は、誰かにけがされたこともなく純粋に見えて、そこから物騒な言葉が紡がれたなんて思えない程。
だけど。……死んで、の三文字は、確実に僕に向けられたモノ。
彼女の思う、黒崎恭哉はどんな奴なのか分からないけど。
それを思うと、僕が彼女と寝ていることは、とても危険な香りがした。
窓際に忘れ去られたように、ぽつんと置かれたままのナイフが、ぼんやりと鈍く光っていた。