幻奏少女
それは薔薇の棘の如く
「……おはよう」
午前7時25分。
結局一度も僕を離さず、目覚めた朔羅はぼんやりと、僕を見とめてそう言った。
記憶はちゃんとしているのか、ここがどこかなどという疑問はないらしい。
「おはよ」
……僕はといえば、あの後一睡も出来なかった。
当たり前か? 女の子どころか、人とふれ合うこと自体久しぶりなのだから。
と。
こんこん、と、ノックの音がして、朝御飯どう致しますか、という執事の声がした。
「そこ置いといて」
少しだけ声を張り上げて、僕が応えると、かしこまりました、と、やがて気配が遠ざかっていった。