週末のシフォンケーキ
お風呂から上がると佐々木君は長い座卓に肘をついてテレビのニュースを見ていた。

『「トランスイート四季島」1年分丸々満席!!』

そんな文字が液晶に踊る。

「あんな高いのどうして満席になるんだよ……」

彼は豪華列車が満席になっていることが信じられないようだった。

「まぁ格差社会だからか……」

学校でもこの旅でもあまり見せない顔。

「まぁ本でも読もうよ」

私は彼を慰めるようにそう言った。

「そうだな。山岸の趣味じゃないけど、俺……、『楚漢戦争』を持って来たんだ」

『楚漢戦争』!?そんなマニアックなもの、私にわかるわけないじゃん。

「私は『恋のガトーショコラ』を持ってきたよ」

「それ、ケータイ小説?」

「うん。最近のラノベはくだらないから」

佐々木君は時代小説を、私はケータイ小説を、しばらく読んだ。


小説が1段落したころには既に3時を回っていて、道路の向かいのコンビニで夕食と飲み物を探すのに時間がかかり、羽越線の反対側の交流施設に戻った時間は5時近かった。

佐々木君はそこでようやくキャンドルを受け取ってチェックインをし、2人とも『元教室』の『和室』に案内された。

和室の中は若干旅館のよう……。ううん、ちょっとした旅館だった。

でも窓までは前歴を隠していなかった。

「夕食にしない?」

「いいね。夕食にしよう」

この旅で初めて私が主導権を取ったように思える。

座卓で食べる夕食はありきたりなコンビニ食だった。
ハム卵のパンや炒飯のおにぎり、ツナサラダ……。

ありきたりなのに東京とは違っていて美味しかった。

それからお風呂に入ることになった。

浴室は1階の奥にあり、元の技術室に温泉を引いた、と職員の女性は言っていた。

女湯は奥にあり、男湯は手前にあった。

無論私は奥の女湯に入り、佐々木君は手前の男湯に入った。

狭い浴場に薄いお湯。
それでもお金のない私達には有り難いものだった。

お風呂から上がると既に布団が敷かれており、カップルのような雰囲気だった。

日は既に傾き、暗くなりつつある。

佐々木君は今日作ったキャンドルを取り出し、芯糸にマッチで火を点ける。

「ライターだとグレてるように思われるからね」

彼は恥ずかしそうにそういったけど、この旅で同行している私には解った。

彼は確かに煙草を吸わない。でもそれだけではなくて、旅の思い出を作ろうとしてのことだと思うし、他にも考えがあるようにも感じる。
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