週末のシフォンケーキ
キャンドルに火が灯ると彼は語り出した。

「実は俺んち、親の兄弟同士の付き合いがそこそこあってさ。ここも前に泊まったことがあるんだ」

「だからここを選んだの」
私は佐々木君に問う。

「うん」

「じゃぁ、どうして親戚の人でも幼馴染みの愛華でもなくて私を選んだの」

「実は……。愛華んちのおじさんも家族ぐるみの付き合いだったから俺と愛華を連れてここに泊まらせてくれたんだ。でも、それは山岸を選んだ理由じゃない」

「じゃぁどうして」

「だいぶ荒っぽいやり方だけど、都会っ子の山岸に田舎の風景を見せたいのと―――」

「見せたいのと?」

私は固唾を飲んだ。

「山岸と付き合いたいんだ」

「嘘―――」

私は驚愕した。やる順序が逆だとも思った。泊りがけのイベントなら大人数でやるか、彼氏彼女の関係になってからやればいい、と思う。

「順序が逆だよ。こういうことは付き合ってからやることだし、高校生2人でお泊りデートなんて危険極まりないよ」

私が詰り調で言うと彼はこう答えた。

「それがここ、新潟県村上市の勝木を選んだ理由だよ」

「それは解ったけど、まだ私を選んだ理由を聞いてないよ。愛華の方が可愛くてスタイルがいいし、料理だってできる。母さんはシフォンケーキが焼けるけど、私はケーキを焼くのも料理をするのも人並み以下だよ」

「俺も山岸と同じクラスだから調理実習も見たことがあるし、今日のきらきらうえつで山岸の母さんが料理上手なのも感じた。でも、俺は高校に入ってサッカーもやめたし、勉強だって身が入らなかった。そんなときに山岸を知ったんだよ。山岸みたいな素直な奴も珍しいしな」

キャンドルのロウは海の水が引くように減ってゆく。

「山岸……、お前の弁当は俺が作ってもいい。俺んちは男も料理をするからな」

「そんな……。無理をしなくていいんだよ」

「真面目にそれぐらいやるつもりだ。とにかく星を見よう」

彼にはぐらかされた感だけど、障子を開けて夜空を眺めてみた。
ここは東京とは違い、多くの星が瞬いていた。

「明日から付き合ってもいいの?」

「明日からとは言わず、今日からでも恋人になりたいな」

私達は夜空の星の下で眠った。
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