リアル☆タイムスリップ
『とりあえず、蜥蜴丸があってよかったの。わしと差せば、とりあえず格好はつく』

「でも重い」

 ぼそ、と言う。
 大小を帯びて歩くのは、現代人にはなかなか辛い。

 結構な重さが左腰にぶら下がるわけで、歩くのも難しい。
 昔の侍は走らなかった、というのも頷ける。

「お腰のものをお預かりいたします」

 見世の入り口で言われ、正宗は蜥蜴丸を渡した。
 蛍丸まで取られるのは不安で仕方なかったが、幸い大刀だけでいいようだ。

---そうか、刀掛けは大刀用だものな---

 もっとも引き出しに入れてしまうという手もあるのだが。
 こそりと正宗は、袖で蛍丸を隠した。

 ところで、と正宗は、通された店構えを見た。
 ここは確か角屋だ。
 通されたのは大広間。

 上座に、でん、と、がっしりとした壮年の男が座っている。
 あれは、と正宗は若干身を乗り出した。

『芹沢じゃの』

 ふよふよと浮いたまま、蛍丸が言う。
 本当に周りに見えないというのは気を遣わないでいいから羨ましい。

「いや、そんなことに感心してる場合じゃないよ。てことは、これは芹沢の……」

『しーっ。滅多なこと口にするなよ。今は例の幹部たちが、和やかな空気の裏で神経を尖らせてる。剣客の感覚をなめるなよ。気取られたら厄介だ』

 蛍丸に言われ、慌てて正宗は口を噤んだ。
 が、歴史を知っている者にとっては、この状況は気になってしょうがない。
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